超有名な本で、ほんとにたくさんの人が読んで、影響を受けている本です。

カードを使った読書メモの取り方等がクローズアップされることが多いので、ここはひとつ「知的生産=ソフトウェアを作ること」という目線で読んでみました。

知的生産の定義

知的生産というのは、頭をはたらかせて、なにかあたらしいことがら―情報―を、ひとにわかるかたちで提出すること

というのが、この本における知的生産です。

まずここで、ソフトウェアという目に見えるものを作って提出することも、知的生産に含めていいと思いました。

知的生産を行う上での心構えという、考え方のようなものが本の中に書いてあるので、その中でソフトウェアエンジニアリングに通じると特に思ったのが次の部分です。

秩序と静けさ

情報を整理したり、事務の技法について触れられていますが、これは「能率の問題だけではない」と著者は言っています。

これはむしろ、精神衛生の問題なのだ。つまり、人間を人間らしい状態につねにおいておくために、何が必要かということである。かんたんにいうと、人間から、いかにしていらつき(注:本文では傍点による協調)をへらすか、というような問題なのだ。整理や事務のシステムをととのえるのは、「時間」がほしいからではなく、生活の「秩序としてのしずけさ」がほしいからである。

この部分が特に、開発ツールの導入やコンサル入れてのプロセス改善について一石投じているのではないかな、と思います。

フル稼働するための改善は失敗する

上で挙げた引用文。

「うちもアジャイルやるぞ」というトップダウンの命令が飛んできたとして、それが「開発効率を上げて品質を良くする」とかもっとストレートに「効率アップすればモノがたくさん作れる」とかだけの考えだとダメだよ、と言っているように聞こえます。

アジャイルサムライ − 達人開発者への道 −』にも書いてあった記憶があるのですが、単に開発効率が上がればオッケーというわけではなくて、「ストレスフリーな開発をしたほうが、良いものできるよね」って発想のほうが、ソフトウェアエンジニアとしては嬉しいし、目指すべきところだと思ってます。

そう考えると、例えば CI とかその他もろもろを始めようと思ったときには、開発者の精神衛生を人間らしい状態に置こうというのが先にくるべきなのかもしれませんね。

「知的生産の技術」はもう 40 年くらい前の本なのにいまだに何度も話題に上がるというのは、やっぱり良書だからだと改めて感じました。

読む側がどういう立場でいつ読んでも、それに応じた何かが得られる。ソフトウェアエンジニアに限らず、自分の社会的もしくは個人的ロールを強く意識して読んでみるといいでしょう。

※この記事は 2014/6/1 に別ブログTales of Verifierに書いたものを移行・編集したものです。

知的生産の技術 (岩波新書)